世界は優しいと思えば、本当に優しい世界になる。
そんな優しい世界に住むためには、どうしたらいいのか?
そのヒントになるように
という小冊子を一年半ほど前に作りました。
実はその頃、同じことをテーマにした小説も書いていました。
「世界は本当に優しいのか?」
色々なことにつまづき、あがきながらも、自ら明るい道を探して生きる主人公たちを書きながら、そんなテーマが伝わればいいな、と思って。
自分としては、かなり思い入れのある作品なのですが、残念ながら、文学賞の選考では落ちてしまいました。
それで、久しぶりに、ネット上で小説も公開してみようかなという気分になりました。
文学賞受賞を目指していた時期が長く、気づくと「選考委員」とか「編集者」の目ばかり気にするようになっていましたが、
自分はやっぱり「読者」と明るい光とか希望に満ちたエネルギーを交換するような体験がしたいのだ、と最近特に感じ始めました。
それを大切にするための、実験の一歩でもあります。
最後まで無料で読めますので、時間のある時にでも、良ければ読んでください!
『星からの手紙』 プロローグ
9月も半分を過ぎ、うだるような暑さがちょっとずつ影をひそめてきた頃、不思議な手紙が一通、僕の元に届いた。
いや、僕の元に届いたのかさえ、よく分からない。その手紙の宛先は、「東京都江戸川区葛西通2-4 みどりシャポー202様」であって、僕ではなかったから。
僕はこのアパートに越してきて2年ほどになるけれど、このような手紙を受け取るのは初めてだった。だから、この手紙は、僕宛とも、前に住んでいた人宛てとも、どちらとも言いきれなかった。
差出人の情報は何もなかった。封筒は非常にシンプルな、淡いオレンジ色の無地のもので、「東京都江戸川区葛西通2-4 みどりシャポー202様」という宛名は、パソコンで打ち出した紙を糊で貼りつけている形だ。つまり、封筒だけ見ると、あまり存在を主張しない手紙だった。
ダイレクトメールかなにかだろうかと深く考えることもせず、僕は数枚のチラシと一緒にそれを1Kの自分の家に持ち帰った。
封筒の端をハサミで切り、中に入っていた一枚の便箋を取り出して、驚いた。出てきたのは、筆で書かれた「書」みたいなものだった。乾いた文字は、一見、印刷されたようにも見えたが、封筒のなかに閉じ込められていたからか、まだ微かに墨の匂いが香った。誰かが、確かに筆を持って書いたものだと証明しているような香り。
「言葉は想いを運ぶのか。届かなかった想いはどこへ行くのか」
書かれているのは、それだけの短い言葉だった。でも、それを読み取るのに一分近く要するほど、その筆で書かれた文字は、個性的で、圧倒的なインパクトのあるものだった。習字の授業で見たお手本の文字とも、行書や草書といわれる流れるような文字とも違う。ただもう、その人にしか書けそうもない、ごつごつとした、力が込められている文字。書かれている言葉の内容より、文字が心に残る手紙は初めてだった。
「言葉は想いを運ぶのか。届かなかった想いはどこへ行くのか」という文字が便箋からふわりと浮き出て、その文字自体が声を出して、言葉を伝えてくるかのようなインパクト。映画では、絵に描かれた龍がリアルに飛び出てきたりするけれど、そんなふうに、ただの記号でしかない文字が、意味のある形として目の前に現れそうだった。
言葉の最後には、筆で書かれた「★」のマークがあった。ちょっと歪んだ、これまた個性あふれる「★」のマーク。これは「星」を意味していることに間違いないだろう。僕は「星野」「星川」「鈴木星」……と、星がつく名前の知り合いを頭に浮かべてみた。誰もそう親しい人ではなく、2年前に越してきたこのアパートの住所を知っているはずはなかった。
書かれている内容は、取り方によってはラブレターのように思えなくもない。でも、「~のか」という言葉の選び方も、ごつごつとした書体も、女性のものとは思えない。
そのせいかもしれない。この手紙は、そのあと何度も届くようになるのだけれど、一通目のときには、「何かの間違いかな」「そんなことも長く生きていれば、あるものなのかもな」程度の気持ちで、一体誰が、どんな意図でこんな手紙を送ってきたのか、深刻に考えることもなかった。
続きは……
「エブリスタ」というサイトで続きが読めます。
→ https://estar.jp/novels/25487982
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