かんじんなことは、目に見えないんだよ

私は、社労士登録はもう辞めたのだけれど、社労士向けのセミナーの企画とか、その告知文を書くとか、そういう仕事はまだしている。

そして、今、社労士業界や人事担当者に熱いのが「働き方改革」。

 

働き方改革というと、一般の人は「長時間労働を減らすこと」とだけ思いがちだけれど、人事の世界では、もう一歩進んで「生産性を上げる」ということがもう一つのテーマになっている。

同じ量の仕事があって、それをこなす人数が変わらないなら、「残業しないで早く帰れ」と言ったところで、「じゃあ、家に持ち帰って、こっそり仕事をしますよ」ということにしかならない。

 

鳴り物入りで始まったプレミアムフライデーも、「プレミアムフライデーに早く帰るために、他の日の残業が増えた」と答えた人が半分近くいるという結果も出ている。

ただ「労働時間を減らそう」だけでは、何の解決にもならない。

 

ほんとうなら、新しい人を入れて、一人にかかる負担を減らして、「だから早く帰ろう」が理想なのだろうけれど、今は人手不足だし、新しい人を雇う余裕がないという会社も多い。

そんななか、苦肉の策として出てくるのが、

「一人ひとりの生産性を上げる」ということ。

 

「生産性を上げる」というのは、一見、耳障りがいい言葉なんだけど、突き詰めていけば、「無駄をなくす」ということなんだよね。

でも、案外、大事なことって、一見無駄に見えることのなかにあったりする。

 

このあいだ、生産性について考えていて、思い出したのは、元同僚のこと。

以前の会社は、私が入社したころは、なんかすごくギスギスとしていて、毎月のように人が辞める会社だったのだけれど、その元同僚が入社してきて、雰囲気が変わったんだったな、と。

その人は、一見ちょっと頼りないし、あまり計算とかするタイプじゃないから、上の人からは誤解されたりして、ちょっと損な役回りではあるんだけど、その分、純粋に「いい人」。

その人が入ってくるまでは、みんな自分の仕事にいっぱいいっぱいで、隣の席の人が困っていようが、見てみないふりをしているようなところがあったけれど、その「いい人」は、後先考えず、「あ、僕、やろうか」とか、さらりと言えてしまう。

それで、自分がいっぱいいっぱいになったりもするんだけど……(^-^;

でも、そういう人は、今度は誰かから助けてもらえる。

 

生産性とか、数字とか追い求めちゃうと、本当は大事な、こういうものが抜け落ちてしまうような気がする。

 

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」というのは、『星の王子さま』の有名なセリフだけれど、かんじんなことほど、目には見えないし、数字にも反映されないし、一見「無駄」や「非生産的」に見える。

でも、それを切り捨てた先には、砂漠みたいな、殺伐とした世界しかない。

 

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」という台詞のあとに、キツネはこうも言う。

「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思っているのはね、そのバラの花のために、ひまつぶししたからだよ」

「ひまつぶし」……これも一見、無駄に見えるけれど、そんなものが、心を育てる。

 

企業活動やビジネスにおいては、数字も大事なんだろうけれど、どんな活動も、やっぱり人と人とのつながり。

そして、人は、目に見えるものだけで、動くわけじゃない。

人は感情で動く。

 

だから、私も、あまり損得とか、効率は考えすぎず、いいな、とか、やりたいな、と思ったことを大事に、今後も動いていきたいな、と思う。

困った人に、さっと手を差し伸べられるくらいの、心の余裕もできるだけ、持ちながら。

 

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執筆者:遊部 香(あそべ かおり)

文章を書いたり、写真を撮ったりしています。

現在は、『凪~遊部香official site~』で主に活動中。

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