今日は素敵な仕事人として、なつめ縫製所のデザイナー・夏目奈央子さんをご紹介します。
夏目さんは、京都大学で建築を学んだあと、建築など空間における布に関心を持ち、現在は、オーダーメイドでカーテンや「人の生活の一部として存在する布製品」を作られています。
ほんわりとした、とてもかわいらしい方なのですが、実はしっかりとした芯があり、自分が大切にしていることを、しっかりと大切にし通す人なんだろうな、ということがインタビューから伝わってきました。
なんというか、本当にバランスが良くて、一緒にいて、心地よい方でした。
是非、インタビュー、お読みいただけたら!
Contents
建築学科に入ったものの、建築に魅力を感じられなかった
夏目さんは、お母様もおばあ様もパッチワークなどを趣味にされていたということで、昔から物づくりに興味があったそうです。
そして、「大きな家を建てられるようになれば、なにかしら物づくりができるようになるんじゃないかという考え」で、建築学科に入ったそうです。
なるほど……というか、「え?」というか……(笑)
でも、実際に建築学科に入った夏目さんは、違和感を覚えたそうです。
大学時代は、有名な建築家の作品をたくさん見るのだけれど、そういう人の作品は、とても遠くに感じた。人の温度が感じられなくて、自分とは全然関係ないもののように感じるというか。
住むものという身近なものではなく、みんなでそれを眺めるものになっていた。
いま振り返ると、建築の良さや楽しみ方はたくさんあると分かるのだけれど、当時の私は、建築に魅力を感じることができなかった。
それは、見方によっては一つの「つまづき」ですが、夏目さんは建築学科で感じた違和感を、新たな方向へ踏み出す「気づき」にされていました。
母と祖母の影響もあって、私も趣味で服を作っていた。それで、衣服はこんなに面白いのに、なんで建築はこんなにも身体と切り離されて、遠い存在なんだろうという疑問が自分の中に湧いた。
本来は、衣服があって、建築があって、空間があって、街があって……と自分を取り囲む環境ができていて、それを全部ひっくるめて“暮らし”というものなんじゃないかって。
それで修論も「衣服と建築」というテーマで書いた。
その気づきが、今も夏目さんの仕事の核になっている想いのようでした。
箱のデザイナーとして社会人生活をスタート
夏目さんが最初に就職したのは、京都で箸箱や陶器の貼箱を作る会社でした。
元々は陶器の入れ物、つまり脇役としての箱を1000とか2000とかいう単位で作っている会社だったのだけれど、主役になる箱を作りたいと社長の娘さんが考えているところだった。
それで、その娘さんと知り合いだったのもあり、箱の企画・デザイン・製造まで携わるデザイナーとして会社に入った。
思わず、「大学ではデザインの勉強もしていたんですか?」と訊いてしまったのですが、建築学科でしていたのは、「空間の作り方の勉強」で、デザインを特に学んだことはなかったとのこと。
デザインはここで初めてしたけれど、やってみると、できた。
な……なるほど……。夏目さん、なんか面白いです。個人的にこういう人、結構、好きです(笑)
ただ、こんなふうにも言われていました。
箱の中には空間がある。
箱を閉めておいて、何年後かに他の人が開けるかもしれない、などと想像すると、人と時間、時間と空間の物語が広がっていく。
単なる「容れ物」ではなくて、手の中に収まる建築を作っているような気分だった。
箱は小さな建築……言われてみると、そうですね。なんか、文学的!
(そうそう、夏目さんに「私も高校時代は建築学部に行きたかったけれど、数学でつまづいて、断念した」と伝えたところ、「入試はそうだけれど、仕事になると、文系だと思う。どれだけ施主さんの想いを汲み上げて、生かせるかだから」と言われていました。確かに、夏目さんからは、悪い意味での理系っぽさは全然なかったです)
大学の同級生に引っ張られて、市川市へ
京都の大学を出て、京都で働いていた夏目さんですが、大学時代の同級生が市川市で設計事務所を開いたのを機に、市川市に引っ越し、なつめ縫製所の代表として独立します。
その同級生というのは、つみき設計施行社の河野直さん、桃子さんという夫婦です。
つみき設計さんは、「住む人と暮らしをともにつくる」ことをコンセプトに、店舗や個人のお宅のリノベーションを主にされていらっしゃいます。
夏目さんも、河野さんの仕事に対する考え方、仕事の仕方に共感して、今はつみき設計施工社の「布部門」として、プロジェクトには積極的に関わっているそうです。
つみきの仕事を見て、こういう建築ならいいなと思えた。学生時代に遠いと感じていたのとは違う建築がここにはあった。そこにはきちんと、人の暮らしがあって、その人の暮らしのための建築になっていた。
私は、そのなかでカーテンやのれん、カーペットなどの布部分を担当しているのだけれど、たとえばカーペットの色を選ぶとき、普通は色という視覚情報だけで選ぶということも多い。
でも、触ったらどんな感じですか? 寝転んだらどうですか? とか、本当はそんな身体感覚も大事。
つみきの仕事は、そんな部分も大事にできる仕事。
いいですね!
夏目さんは、お客様から頼まれた物を作るとき、「その人の暮らしの一部になるものを作っている」という意識を大切にしていると話されていました。
作ってお渡しするのがゴールではなくて、その物によって、その人の今後の人生がより楽しいものになるようにと思って作っている。
素敵~!!
これはカーテンなど住に関するものだけでなく、鞄や服を作るときも同じだそうです。
たとえば服を依頼されたときにも、どんなものを作りたいのかを聞くだけではなく、
その人がどんな暮らしをしたいのかを聞くようにしている。出掛けるのが好きな人なのか、家でくつろぐのが好きな人なのかとか、その人の暮らしによって、ふさわしいものも変わってくると思うから。
鞄を作るときにも、何を入れるのだろう? どこに行くのだろう? どこに置くんだろう? そんなことを考えて、作らせてもらう。
そこまで考えて作ってくれるなんて、いいですね。
そして、作ったあとの、お客さんと作った物との関係を大切にしているからこそ、
「あのとき作ってもらったの、もう黒くなっちゃったけれど、でも今も大事に使っている」とか、「壊れちゃったから、直せる?」とか言われると、とても嬉しい。
壊れるまで使ってくれて、汚してもらって、ありがとうと思う。そこまで使ってもらえたら本望。
という言葉も、さらりと出てくるのだと思いました。
今度、長く使いたい布系のものが必要になったら、夏目さんに頼むぞ!
服や布の可能性を広げたい
そんな夏目さんに、「これからどんなことをしていきたいですか?」と聞いたところ、
ファッションやおしゃれ以外の目的での衣服とか、カーテンやのれんなどという名前のない空間の中の布とか、そんな布の可能性を広げるようなことをしていきたい。
とのことでした。
ファッションやおしゃれ以外での目的の衣服、というのは、「それを着るとやる気モードになるような、行動のスイッチが入るというユニフォームづくり」などだそうです。
夏目さん自身も、自分の作業用にユニフォームを作っていて(右の写真)、それをサンプルとして店にも飾っていました。
ユニフォームというと、フリーで仕事をしている人間には無縁のように感じなくもなかったですが、自宅で一人で働いていることが多いからこそ、そういう「仕事モードON!」になる服があるっていいかもしれません。
このなつめ縫製所のユニフォームサンプルを見て、建築模型を作っている方も自身のユニフォームを注文されたそうです。
ひとりでやっているからこそのユニフォームという発想も、素敵ですね!
1+1+(イチイチ)を賑やかな場所にしていきたい
そして、もう一つの将来の目標としては、1+1+(イチイチ)でのイベントを増やして、賑やかな場所にしていきたいということがあるそうです。
イチノイチというのは、取材させて頂いたスペースなのですが(千葉県市川市南大野3-14-4。武蔵野線 市川大野駅から徒歩10分ほど)、縦長のスペースになっていて、一番手前のエリアが、夏目さんの作品を販売しているスペース。中ほどにカーテンのサンプルが掛かっているワークショップスペースがあり、奥にオフィス空間があります。オフィス空間には、これから、つみき設計施工社さんの事務所が移ってくるそう。
で、中ほどのワークショップスペースなどで、今後、イベントを増やしていき、地域にもつながっていきたいというお話でした。
先週2月18日には、鞄づくりのワークショップを開催したそうですが、午後の部は、地域の人が子供を連れて飛び入り参加され、賑やかな場になったそう。
それを見ていて、これから、衣・食・住のイベントを通して、ひとりひとりの暮らしに寄り添える場所にしていきたいと思った。
市川大野は、市川市の中ではちょっと淋しい場所だけれど、ここを目指して人が集まってくるくらいにしたい、と。
で、ここに来た人が、「何か私にもできるかも」とか「しまってあるミシンを出してきてみようかな」とか「じゅうたんやカーテンを替えようかな」とか、小さなことでも、暮らしを自分の手でつくってみようと思ってもらえるようなことをしていきたい。
いいですね!
確かに武蔵野線って、乗らない人は乗らないと思いますが……市川大野は、総武線も通る西船橋から2駅ですので、是非、足を運んでください!
夏目さんのワークショップだけでなく、餃子パーティーとか、衣食住に絡んだ様々な催しがあるそうです。
イベント情報はこちらで → https://www.facebook.com/11イチイチ-248886628899932/
起業して、フリーでやっていくために大切なことは
夏目さんにも恒例の「フリーでやっていくために大切なことは何だと思いますか?」という質問をしてみました。
受け身でなく、自分で仕事を創っていくこと。
今までのことも参考事例として知ることは大切だけれど、そこをふまえつつ、「自分だからこそ」をプラスすること。
お客さんの望んでいることをできるだけ汲み取り、想定以上のものを提供すること。
なるほど~。
そして夏目さんは、特に最後の「想定以上のものを提供すること」を大切にしているようでした。
オーダーしてくれる方は、私と一緒に物を作りたいということで、大切なお金と時間を割いてくれている。だから、その方と過ごす時間、空間、届けたときの喜びや驚きなど、共有することを大切にしたいと思っている。
そして、私に何を求めてくれているのかを注意深く読み取り、それに応えられるようにしながらも、その方が想い描いているものプラスαのものを作りたいと思っている。ちょっと驚いてもらったり、くすっと笑ってもらったり、そんな何かプラスを追加できたらって。
私はこの縫製所を“カタログのない縫製所”と言っているのだけれど、“布はこの中から選んで、色はこの中から選んで……”と、カタログから選んだら、それは想定内のものにしかならないから。
だからこそ、物の制作を頼まれたとき、前に書いたように「出掛けるのが好きな人なのか、家でくつろぐのが好きなのか」など、その人の暮らし全体をできるだけ把握しようとするのですね。
夏目さんは、インタビューのときも、ひとつひとつの言葉を、とても丁寧に選んで話されているなと感じましたが、きっとひとりひとりの方と向き合う姿勢も、物づくりに対する姿勢も、同じように丁寧なのだろうなと思わせる方でした。
だからなのでしょう、夏目さんの作ったものには、ひとつひとつ、気品のようなものがありました。
最後に夏目さんは、こんなことも言われていました。
曲がりなりにも、今まで4年間なつめ縫製所を続けて来れたのは、布という仕事が自分の暮らしのひとつのパーツだったからなのではないかと思う。
起きる、食べる、布団を干す、布に触れる、掃除する、ミシンを踏む、遊ぶ、うとうとする……というように、1日のなかでのごく自然な活動のひとつであって、仕事でもあって、という存在。
ひっくるめて、すべてが「暮らす」ことにつながって、だから無理することなく、続けてこれたんじゃないかな、と。
確かに、夏目さんと話していて感じる心地よさは、自然体の人と接する心地よさだったように感じます。
きっと夏目さんが、大学時代に感じた「建築は遠い」という感覚を無視して、家の設計図を描く仕事をしていたら、今のような素敵な雰囲気にはなっていなかったのでしょう。
そういう意味で、夏目さんから一番学んだ、しあわせに生き、しあわせに働くヒントは、「自分の感覚、自分らしい暮らしを大切にする」ということかなと思いました。
良い時間を、ありがとうございました!
★夏目さんの「なつめ縫製所」
サイト → https://natsumelaboratory.jimdo.com/
イチイチのfacebookページ(イベントなどの情報はこちら)
→https://www.facebook.com/11イチイチ-248886628899932/
※イチイチ……千葉県市川市南大野3-14-4。武蔵野線 市川大野駅から徒歩10分ほど
カーテンやカーペットを替えたいなという方、自分好みの鞄や服が欲しいなという方、是非、夏目さんにアプローチしてみてください♪
私が個人的に一番気になっているのはこれ。
子供向けのリュックなのですが、肩の部分がマジックテープになっているので、背負わせるのも取るのも楽、という。
このままでも販売されていますが、お子さんの好みや名前などからイメージされる飾り付けをして、オンリーワンのリュックにすることも可能だそうです!
私は手を動かして自分で何かを作るということが得意ではないので、夏目さんに自分の想いを代弁してもらって、息子へのプレゼントを作ってもらうのも素敵かも、と考え中です。オーダーメイドのものをプレゼントするって、「想いを代弁してもらう」って要素もありますよね。
ということで、自分へのご褒美にも、大切な方へのプレゼントにもお薦めです! 夏目さんはきっと丁寧に、要望をヒアリングしてくださるはずですよ♪