2016年に読んで、心に残った小説3冊

たまには小説ネタ。

私は通勤時に本を読むタイプなので、正社員を辞めると、急に読書量が減るという問題点がある……。それを克服すべく、来年はもうちょっと本を読む時間を意識してとりたいな。

ということで、今年はさして誇れるほど小説を読めていないのだけれど、そのなかから、読んでしばらく経っても「この人の小説、良かったな」と余韻が残っている本を3冊。

「私の男」桜葉一樹

随分前に話題になった本なので、すごいいまさら感がありますが……。

実際、私の本棚にも随分前から、読まないまま眠っていた。でも、今年春の大片づけのときに捨てようかどうか迷ったあと、「残したのだから、読もう」と意を決して開いた本。

でも、これが、良かった。

近親相姦の話という前情報だけあったから、「監禁された人は、精神の健全を図るために、監禁した人を次第に好きになっていく」というような、暗くて重い話なのだと勝手に決めていたけれど、違った。

なんというか、この父親と娘は、もっと普通に仲が良くて、世界に入り込んでいくうち、「別に、いいじゃん、この2人はこれで」という気持ちになってくる。

それって、桜葉さんの筆力だよなぁ。

でも、常識的には「いい」わけはなくて、それが次第に周りからじわじわと歪みになってやってきて、事件が起こったり、追い詰められていったりする。
(本の構成は、現在から過去にどんどん遡っていくスタイル。この内容を、そのスタイルで書けるというのも、また、すごい!)

決して2人のしんどい感情が表に分かりやすく現れるわけではなくて、2人の心理(特に娘のほう)が、北海道の暗い冬の海の光景に重なることで、ぐわっと立ち上ってくる感じ。

読んでしばらく経った後も、この北海道の海の情景がずっと消えない。

こういうのを情景描写っていうのだろうか。本当に力のある作家だなぁ、とただ感心。

扱っているテーマがテーマだけに、決して明るく楽しい話ではないのだけれど、文学好きなら、絶対、世界観に浸って、心地よい時間は過ごせると思う。

本当、いまさらなんだけど、今年読んで良かった本1位はこれ。

私はストーリーの面白さより、「その世界に浸れる(明るすぎず、ドロドロもしていない、ややマイナー調のグレーの世界が好きなよう)」こと重視で小説を選んでいるんだなぁ、ということを改めて実感もした本でした。

「あのひとは蜘蛛を潰せない」綾瀬まる

今年、「いい作家を一人見つけたぞ!」という手ごたえを感じられたのが、綾瀬まるさん。

窪美澄さんの名前に惹かれて買った「あのころの、」というアンソロジーのなかで出会い、「この人、すごくない?!」と思い、単著をamazonで探し、購入。

窪さんもそうだけれど、綾瀬まるさんも「女による女のためのR-18文学賞」から出てきた人みたい。

あまり性的描写は好きではないけれど、エロくなりすぎず、美の一部、作品の一部として性的シーンを描くにはかなりの力量が必要なわけで、そこをしっかりこなせる作家は、実力のある人なのかもしれない。

ということで、「女による女のためのR-18文学賞」出身作家、けっこう注目かも。

「あのひとは蜘蛛を潰せない」には、性的な描写はなく、28歳の女性主人公の心情をかなり緻密に書いている。特に母親との関係。

途中、ちょっとその関係性とか、恋人との語り(恋人も家族に対して複雑な感情を持っている)がちょっと面倒に思えるところもあるのだけれど、それも含めて、なにか一つの確かな世界が描き出されている感じがした。

「蛇行する月」桜木紫乃

桜木さんは、「ホテルローヤル」が直木賞を受賞したとき、ちょっと読んでみたのだけれど、図書館で借りてしまったので、期限に間に合わず、やむなく途中で返却……。

ただ悪い印象はなかったので、改めて読んでみたら、これは、かなり良かった。「ホテルローヤル」は途中までしか読めていないので、語る資格はないけれど、読んだところまでと比べると、「蛇行する月」の方がいいくらいだと思う。

これは6人の女性の話を組み立てて1つの作品にしたもの。

ただ、今はやりの(?)「連作短編」ではなく、もっと6つの話だからこそ浮かび上がってくるものがある「長編小説」なんだろうな。

ちょっぴり頭が弱くて、20歳以上も年上の和菓子職人と駆け落ちし、子育てに追われ、貧しく暮らしている女性が、それでも「しあわせ」と言い切れるのはどうしてなのか?

その女性の同級生、和菓子職人の元妻、母親などの視点から物語がつむがれていく。

ただ、その女性が6話すべての「主役」ではなくて、6話それぞれの主人公の女性の生活の中に、ちょっと絡んでくるような構成。

その絶妙な絡み方と、その女性とコンタクトを取ったあと、6人それぞれがちょっと変化する、その「ちょっとさ」が絶妙で、良かった。こういう変化はあからさま過ぎると、作り物くさくなっちゃうから。

これを読んで、桜木さんが気に入り、最近文庫本が発売されたばかりの「風葬」も購入。現在、読書中。でも、「風葬」よりも、やっぱり、「蛇行する月」の方がいいように思う。

宮部みゆき「火車」

ついでにもう一冊。

これまた、かなりいまさら感が強い本なのだけれど、すごーく前、伊豆文学賞をもらったときに副賞としてもらった「新潮の100冊」のなかに入っていて、なんか捨てられずにいた本。

宮部みゆきは(って、なんで宮部さんだけ、呼び捨てなんだろう。メジャーになりすぎると、「さん」をつけづらくなるのか? 三島由紀夫「さん」とか、太宰治「さん」とかも変だし、そういう意味では、宮部みゆき、東野圭吾などは、文豪なのか??)、5~10冊くらいは読んだことがあるけれど、「ちょっと苦手」な部類の作家だった。

なんというか、「あぁ、エンターテイメントを量産している作家ね」という感じで。

でも、これは違う。

なんで宮部みゆきが山本周五郎賞?と思っていたけれど(山本周五郎賞を受賞した作品は結構好き。なんというか、ちゃんと心に届く作品が多い)、読み始めて、分かる、分かる、って感じ。

まだ量産していなかった初期の作品だからなのかな。文庫本で600ページ近い大作なのだけれど、一つ一つの言葉にしっかり想いが込められているのが分かる。

この作品は、「失踪した甥の婚約者を、休職中の刑事が探していく」という物語なのだけれど、その奥に、カード破産という日本の闇が描かれている。

そこの描き出し方に、非常に情熱を感じるし、「自己破産する人は、本当にだらしない、ダメな人なんですかね? その人以上に、このカード社会の仕組みに問題がないですかね?」という問題提起が心に迫ってくる。

この作品は、もう20年以上前の作品だけれど、その後問題になった「グレーゾーン金利」の問題などが鋭く指摘されていたりする。この作品がきっかけで、社会的な法整備が進んだんじゃないか、と思われるくらい。

本が売れないという時代、専業作家として食べていくためには、1年に何冊も本を出さないといけないのかもしれないけれど、こういう良質な作品を、じっくり腰を据えて書ける本当に筆力のある作家が増えないと、日本の文学は廃れるよ……、なんて思ったりした。

本当、宮部みゆきのイメージが、がらりと変わった本でした。

ま、だからといって、最近の宮部みゆきの本には手が伸びないけどね。

……と、小説のことだと、手が止まらず、すらすら書けるなぁ。本当、小説、好きなんだなぁ、と改めて思ったわ……。来年は本を読む時間、もっと取ろう。

 

執筆者:遊部 香(あそべ かおり)

オフィス言の葉代表・起業家支援ライター

仕事では主に、起業して間もない人、これから起業しようと思っている人に対する文章支援を行っています。「ライターが作るホームページ」サービスも人気です。

>> 詳しいプロフィールはこちら


【無料】素敵な仕事人紹介ブログからプレゼント!


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です