産前・産後のママのそばに運動があるのが当たり前の社会にしたい:ピラティスインストラクター 大塚ひとみさん

大塚ひとみさん

今日は、素敵な仕事人として、ピラティスインストラクターであり、一般社団法人日本母子健康運動協会の代表理事でもある大塚ひとみさんをご紹介します。

大塚さんは専門学校生だった19歳から25年間ずっと「人を健康にする」のための仕事をされており、今は「妊娠中や産後のお母さんの身近に“運動”がある世の中を作りたい」という一途な想いで活動されている、軸のしっかりと通った、とても魅力的な方です。

人は、「運動するから“動物”なのであって、便利な世の中で動かないと“植物”になってしまう」など、はっとする言葉満載のインタビューでした。是非、お読みいただけたら!

Contents


少し運動から遠ざかっただけで……という気づき

大塚さんは25年間もエアロビやピラティスのインストラクターをされていますし、趣味もサーフィンということで、見るからに「運動が得意そう」な方です。

でも、子どもの頃から体育が得意だったというわけでなかったそうです。

運動に興味を持ったきっかけは、高校生の時にバトン部に入ったことだった。姉が先にやっていて、面白そうだと思って、高校入学と同時に入ったのだけれど、その頃はバトン部とは名ばかりで、実際はチアリーディング部みたいな感じだった。

コーチの先生が熱心だったのもあり、全国大会や世界大会に行くような部で、練習は元旦しか休みがないようなハードなものだったけれど、充実した日々だった。

ただそこで運動することの楽しさを覚えたものの、高3で部活を引退すると、就職活動をし、内定ももらい、運動とは無縁の“普通の就職”をするつもりだったそうです。

でも、そうやって部活を引退して、しばらく運動をしなかったら、一気に10キロも太った。太ったせいなのか、体は毎日だるく、常に体調不良な感じだった。

それが、運動って大事なんだ、と気づいたきっかけだった。

そしてそう気づいた大塚さんは、内定を辞退し、スポーツ系の専門学校に進みます。

当時、チアリーディングに一番近いように見えたのが、競技エアロビクスという、新体操に似た競技だったため、エアロビクスのインストラクターを養成するような学校を選んだそうです。

でも、実際に学校に入って勉強をはじめると、エアロビクスやフィットネスよりも、解剖学の勉強の方が面白くなって。

解剖学で人間の体を学ぶと、人の体は本当に小宇宙だな、と思った。人の細胞とか、顕微鏡で見ると、本当にきれいなのよ。一つ一つが瑞々しくて。

解剖学では、腰痛を直すにはどういう体操をしたらいいのか、とか、効果的にダイエットするにはどうしたらいいのか、なども学んだ。

そんな人の健康に関する勉強を続けて、今に至っている感じ。

インタビュー中、大塚さんは「健康業界も、医療業界も進歩が速いから、常にアンテナを張って新しいことを勉強している」ということを何度も話されていました。

その「ずっと勉強を続けられるところが、この仕事の面白さ」だとも。この言葉も素敵だなと思います。

迷わずフリーランスを選ぶ

専門学校を出た人は、「スポーツジムなどに就職する」か「複数のジムのレッスンを持って、フリーランスとして働くか」のどちらかの道を選ぶことになるそうですが、大塚さんは、迷わずフリーランスの道を選んだということでした。

頑張っただけ収入も増えるような出来高制のほうが性に合っていると思った。

ひとつの組織のなかでしか働けないと、井の中の蛙になる。色々なところに行くからこそ、情報が入ってきて、新しいものも取り入れていかれる。

だから私はフリーランスでいることには、ずっとこだわってきた。

専門学校を出る時点からそんなふうに自分の適性を見極められていたというのは、すごいですね。

そう私が口にしたところ、

サーフィンが好きで、時間に縛らず、海に行きたいと思っていただけかもしれないけど。

と大塚さんは笑っていましたが、そのあとの言葉も素敵でした。

そのとき楽しければ、という、アリとキリギリスで言ったら、キリギリスなのかもしれない。
でも、明日死ぬかもわからないし、妥協したくない。1日1日を全部使いきりたい。

大塚さんはインタビューの後半で「フットワークが重くなったら、自分は終わりだと思っている」とも言われていました。見習いたいです……。

ピラティスのインストラクター養成に携わったことが1つの転機

大塚ひとみさんそんなふうに、フリーランスで、フットワーク軽く活動されていた大塚さんのところに、のちに大きな転機となる話が来ます。

エアロビのインストラクターとして仕事をしていた先の会社から、

「最近海外ではピラティスというものがはやっているらしい。今後、うちの会社でもピラティスのインストラクターを養成できるようにしていきたい。

日本にいるイギリス人でピラティスのインストラクターがいるから、その人に習ってきてくれないか」

という話があります。

新しいことに常にアンテナを張っている大塚さんは、喜んでそれを受けます。

そして実際にピラティスのインストラクター養成講座を始めると、「当時はまだ欧米でしかピラティスのインストラクターの資格は獲れなかった」ため、その講座は非常に盛況でした。

自分が何人のインストラクターを育てたか、もう分からないくらい。
多分、1000とか、そんな数じゃないかと思う。

1000? 改めて、お話を聴いている相手がものすごい方なのだと実感します……。

その後、大塚さんは自身で新しいプログラムを考えたり、その普及に努めたりし始めますが、その際、この「1000人ほどのインストラクターを育てた」という経験も生きてきたそうです。

その頃は、養成した人を対象にした勉強会を主催したり、精力的に、健康に関する最新情報を載せたブログも更新していた。当時はインストラクターでブログを書いている人も少なくて、たくさんの人に見てもらえた。それで、ネットワークを作れたことは良かった。

ピラティスが日本に入ってきたとき、その最前線にいられたというのは、ラッキーなことだったのだと思いますが、でも、それは棚ぼた的な運ではなく、大塚さんの「フットワークの軽さ」があってこそ手に入れられた運だったのだと思います。

大塚さんは、インタビューのなかで、何度も「運動」の大切さを話されていましたが、さらりと「運動というのは、運を動かすとも書く。動くことが運を呼ぶ」と言われていた言葉も印象に残りました。

フットワークの軽さ……確かに考えてみると、「素敵な仕事人」の多くは、フットワークが軽く、友人・知人の数が驚くほど多いです。

産前産後の母親の体のケアが“隙間”になっていると気付く

大塚ひとみさん大塚さんの次の転機は、自身の妊娠・出産だったと言います。

大塚さんは、習慣性流産でしばらく子供が授かれなかったそうで、子供はあきらめかけていたそうですが、ピラティスを始めて少しすると、自然妊娠しました。

(「ピラティスが不妊に効くという医学的根拠はまだないけれど、自分の経験からも、ピラティスは健康にいいと感じられたから、普及活動に力も入れられた」とも言われていました)

しかし、そこで気づいたのは、

せっかく妊娠できたのだから、自分としては、この貴重な期間を、できるだけ楽しく、健康に過ごしたいと思っていたのだけれど、病院にも行政にも、産前産後を健康に過ごすための情報はなかった。

それに、行政は離乳食の作り方は教えてくれるし、病院は子供の検診は1か月、3か月、6か月と定期的にしてくれるけれど、産後の母親のフォローはほとんどなかった。妊娠・出産した女性の体は、大きな事故にあったくらいダメージを受けるのに。

ということでした。

そして、

この、産前産後の母親の体のケアという“隙間”を埋めることを自分がやったらどうかと思った。

ということから、のちに今の「一般社団法人日本母子健康運動協会」設立につながる活動を開始します。

病院や行政がしてくれていたなら、自分はやりはじめなかったと思う。あくまで、そこに誰にもケアされていない領域があると思ったから、始めた。

という大塚さんの言葉も、素敵だなと感じました。

運動ができるだけ身近にある環境を作ることが大事

大塚さんがまず最初に取り組んだのは、「バギーエクササイズ」の普及活動でした。

それは自身のこんな体験があったからだそう。

産後はなかなか運動するまとまった時間は取れないけれど、私はベビーカーを押して散歩しながら、“ここでこういう運動をしたら、ここの筋肉が鍛えられていいかもしれない”と、自分の知識を使って、簡単な運動を取り入れてみた。

それだけで意外と、自分の体が妊娠前の状態に戻っていくのを感じた。

海外のベビーカーが、ごつくて大きいのは、「ベビーカーを押しながら、走る人が多いかららしい」と私も聞いたことはありましたが、私自身は、自分がそんなことをしようとは欠片も思いませんでした……。

でも、大塚さんが言われるのは、「運動しないと、と構えると続かない。それより、運動ができるだけ身近にある環境を作ることが大事」とのこと。確かにそうですよね。

大塚ひとみさん大塚さんは、自身の経験から作り出した「バギーエクササイズ」を、ベビーカーを作っている会社の社長に提案したところ、興味を持ってもらえます。

その結果、「バギーコンサート」(全員がベビーカーに赤ちゃんや子供を乗せて集まり、バイオリン演奏を聴くコンサート)の際に時間をもらえることになり、メディアにも注目されるきっかけになったそう。

ただ、そこだけ聴くと、「一気に成功した」というイメージですが、実際は、

ピラティスのインストラクターとして、以前から雑誌の記事監修もたくさんしていたし、インストラクターの養成を通して、ネットワークがあり、新しいことをしたら注目してもらえるという環境があった。

ということのよう。

私を含め凡人は、成功している人を見ると、つい、「なにかすごくラッキーなことがあったに違いない」などと思ってしまったりしますが、大抵の成功者の裏にあるのは、実は地味で目立たない小さな行動を積み上げていく日々なのだと思います。

バギーエクササイズについては、大塚さんはインストラクター養成にも力を入れられていますが、一般の人向けのイベントの講師もされているそうです。

現在、バギーに乗せるくらいの子供をお持ちの方、そんなお子さんをお持ちの友人がいる方、これから出産を予定している知り合いのいる方は、是非、情報をリサーチしてみてくださいね。

→ http://mother-child.net/

自分で自分をケアする方法を身に付ける

そんなふうに運動の大切さを常に想い、活動されている大塚さんは、

運動というのは常に能動的であるのがいい。

と、言われていました。

どういうことかと言うと……

身体や心をケアする手段はたくさんある。エステに行くとか、マッサージを受けるとか、カウンセリングを受けるとか。

でも、受動的なものは、結局、そこに行かないと再現性がない。運動は、違う。

バギーエクササイズのクラスの場合、子供が2,3歳になったらクラスは卒業してしまう。でも、そこで運動のしかたを身につけられれば、その効果はエンドレスだと思う。

自分で自分をケアする方法さえ手に入れられれば、常に自分をハッピーにできる。

確かに、そうですよね。

私は20代の頃からひどい肩こりに悩まされ、マッサージやら整体やらカイロプラクティックやら、鍼灸やら、本当に色々やってみましたが、ヨガをちょっと習い、毎朝ヨガ(のような、ただのストレッチのような……?)をするようになったら、マッサージに行かなくても大丈夫になりました。

人に癒してもらうのも気持ちいいですが、やっぱり自分で自分の体と心をケアする方法を手に入れることって、大切だな、と思います。

そして大塚さんは、こんなことも言われていました。

運動をすると血が回るから、気力が出てくるし、免疫力が高まる。

運動をするというのは、あらゆる感覚を使うこと。だから、人間らしさにつながる。

世の中便利になって、どんどん動かずにすむ世の中になっているけれど、人間は動くから“動物”の仲間なのであって、動かなければ、“植物”になってしまう。

動物と植物の違いは何かと言うと、植物には、動く機能と感じる機能がないということ。

つまり、人間も動かないと、五感が退化してしまう。

今、何時か時計を見ないと分からない。
自分のお腹が空いているのかもよく分からない。
顔を蚊に刺されても気づかない。
食べ物が食べても安全か、嗅覚では分からないから、賞味期限にだけ頼る。

こういうの、本当は、おかしいことだと思う。

やや耳に痛い言葉もありますが……、でも、大塚さんの言われていることは、本当、もっともだな、と思います。

脳は意外と単純。体の方が実は、複雑。

だから、頭で考えることを先行させると、人間は間違う。体の方が素直。

戦争とかおかしな考えになるのは、体を動かさない人が頭でばかり考えているからだと思う。

人と何かトラブルが生じたら、色々頭で考える前に、“まず、走ってこい”と言いたい。

かなり強烈な言葉ではありますが、確かにそうですよね。

このインタビューでも多くの方が、「直感」や「感覚」の大切さを語るのを聞いてきましたが、「なにか気になる」「なにか嫌な感じがする」という正しい情報を得るためには、やはり五感を研ぎ澄ます必要があるのかもしれませんね。

妊婦や産後すぐのママのそばに運動があるのが当たり前の社会に

大塚ひとみさんそんなふうに「運動」の大切さを人一倍感じている大塚さんだからこそ、妊娠中や産後のママのそばに「運動」がないことをおかしいと思い、その問題を解消するべく行動を起こせただと思います。

大塚さんは自身の活動の目指すところについて、このように話されていました。

公文やECCジュニアは、社会の至る所にある。それはなぜかと言うと、教えることや英語が得意なママが気軽に教室を開けるという仕組みになっているから。

私たちの活動も、そんなふうに広がるようにしたい。

今は、バギーエクササイズの資格を獲る人は、元々エアロビのインストラクターをしていたとか、既に健康業界にいた人がほとんどだけれど、今後は、そんな経験がない人にも広げていきたい。

自分が妊娠・出産したときにバギーエクササイズと出会って良かったから、自分も広められるようになりたいというママやパパに資格を獲ってもらえるように、アプローチの仕方も変えていきたいと思っている。

なるほど。

「運動をすべての人にとって、もっと身近なものにしたい」というのが、大塚さんがずっとぶれずに抱いている人生のテーマのようでした。

そして大塚さんは、“普通のママ”がインストラクターになることのメリットは他にもあると話されていました。

そうやって、今まで専業主婦だった人がインストラクターになれたら、“〇〇ちゃんのママ”だけではない“〇〇先生”になれる。それに、報酬も得られる。

主婦が社会的な立場も得られるという意味でも、意義のある活動になると思う。

確かに、そうですよね。

子どもが小さいうちは子育てに専念したいと思って家庭に入ったものの、その後、社会に戻るきっかけをつかめないでいる女性は多いと言います。そういう人の背中を押せるような活動、素敵です。

ママが健康になれば、子供も増えて、少子化対策にもなるし、虐待もなくなると思う。

“健康”というのは、体と心の健康だけではなくて、“社会的な健康”も大切。社会とのつながりがない、お金がないというのは、体は健康であっても、社会的には不健康。

だから運動というツールを使って、まずはママを外出させて、他のママ友と出会わせたい。そして次のステップとして、自分でも教室を開いて、お金を稼げるようにもなってもらえたらと思う。

フリーで働くために大切なこと

そんなぶれない“理念”を持った大塚さんにも、「フリーで働くために大切なのはなんだと思いますか?」と訊いてみました。

フリーにはフリーのリスクがあるということを自覚すること。

フリーは自由で、楽でいいね、というのは違う。

自由というのは不安定ということ。
逆に安定というのは不自由だということ。

関節が柔らかい人は、普段は動きやすいし、体が楽だけれど、実は交通事故などで大怪我をしやすい。
関節が硬い人は、普段は体を動かしづらいけれど、守る力も強いということで、事故には実は強い。
というのと、ちょっと似ている。

本当はいいバランスを取れればいいけれど、でも、フリーを選ぶなら、フリーのリスクを自覚して、自分をきちんと磨く、危機管理をしっかりして甘えない、ということを守ればいいだけだと思う。

大塚さんはインタビューの最初に、自分は「アリとキリギリスなら、キリギリス」と言われていましたが、1時間少し話を聴いていると、最先端の知識を取り入れるため、常にアンテナを張り、フットワーク軽く色々な業界を飛び回って、人に会い、人の話を聴いていることが分かりました。

大塚ひとみさん確かにコツコツ同じことをずっと繰り返す「アリ」とは違いますが、また違ったストイックさを持った努力家なのではないかと、非常に感じました。

大塚さんは25年間同じ業界にいらっしゃいますが、ずっと同じ核を持ちながらも、年々活動の領域を広げて行っているのも分かり、こういう“続け方”もあるのだと、非常に勉強になりました。

まずは伸びをすることから

大塚さんには最後に、「運動する習慣がない人が、まず最初にやってみるなら、何からがいいですかね……?」という質問をしてみました。

1日1回伸びをすること。

本当に低いハードルで、驚きましたが、これにはちゃんと理由があるそうです。

人間は生まれたときから、ずっと重力によって体を縮まされているから、1日1回伸びをするのが大事というのは、ちゃんと根拠がある話。

それに姿勢と感情はつながっている。
人は普段、どうしても屈曲の方向に体が行きやすい。背中を丸めて手を前に出して、キーボードを打ったり、スマホを覗きこんだり。
背中を丸めてスマホを見ている人を見て、“うわぁ、楽しそう”とは思わないでしょ? それはやっぱり、姿勢と感情がつながっていると、本当はみんな分かっているということ。

屈曲の反対は、伸展位というのだけれど、キューピー人形のような姿勢。胸を広げてみると、気分もポジティブになる。

疲れたときには、一度そういう姿勢になってみると、気持ちが晴れて、生産性が高まる。

最近企業で、いくつかスタンディングのパソコンデスクを導入しているところがあるけれど、それも、伸展位の方が生産性が高まるという研究結果があるから。

25年間様々な健康情報を積極的に仕入れてきている大塚さんの話には、非常に説得力があります。

と、最後はやや脱線してしまいましたが、そんな質問にも、きちんと丁寧に答えてくださった大塚さん。

大塚さんの、ぶれない「運動」と「健康」への想い、その想いを実現につなげる確かな行動力には、非常に学ぶところが多かったです。

お忙しいなか、お話を聴かせて頂き、本当にありがとうございました!


◆大塚ひとみさんが代表理事をされている
「日本母子健康運動協会」のサイト

◆産前・産後の運動をもっと身近にするために開発中の体操
(現在は第1のみ公開中。第4まで企画されているそう。
すでに東京都のある市町村では導入済み。大手の産院でも導入検討中だとか。
第1は産後すぐの「産褥体操」です)

◆是非、他の素敵な仕事人インタビューもお読みください!
素敵な仕事人の定義と一覧

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執筆者:遊部 香(あそべ かおり)

文章を書いたり、写真を撮ったりしています。

現在は、『凪~遊部香official site~』で主に活動中。

>> 詳しいプロフィール
>> メインサイト「凪」



大塚ひとみさん