好きな作家はたくさんいるのですが、そのなかの一人が道尾秀介さんです。
1975年東京生まれという共通点と、あまり作家っぽくない、お洒落で今どきな感じの風貌(写真でしか知らないですが)に好印象を抱くというのもあるのですが(笑)、「光媒の花」という短編集を読んだとき、その才能に圧倒されました。
それまで、道尾さんは「ホラー作家」という印象が強く、ホラーを読まない私は敬遠していたのですが、「光媒の花」は純文学的な短編集で、大きな事件が起こるわけではないのだけれど、圧倒的な筆力で、世界を描き出している感じがして、ぞくぞくしました。
空港の本屋で立ち読みしたら、気になってしまい、そのまま旅のお供になった本です。
世界観のある小説が好き
それから初期のホラー作品も含め、何作か読んできましたが、2008年に出版されたという「ラットマン」を最近になって読みました。
これがまた面白くて、世界観もさるものながら、構成がよくできていて、本を置くタイミングを逸してしまうような内容でした。
最後の方、どんでん返しも盛りだくさんなのですが、でも、道尾さんの作品の良さは、ストーリーの巧みさ以上に、やっぱり「世界観」の気がします。全体的にグレーっぽいくすんだ世界観なのだけれど、それが妙に落ち着く(私はパステル調の世界より、グレーっぽくくすんだ世界観を持つ小説が好きです。個人的に)。
もちろん登場人物や描き出される世界にリアリティもあるのですが、リアルにだけこだわらず、独自の空気感や色合いがあるのある世界が作り出せるって素敵だな、と。
小説家をつづけられると思う理由
で、良い本を読んだと、余韻に浸りつつ、文庫本だったので、巻末の大沢在昌さんの解説を読みました。
そこでこんな言葉に出会いました。
彼の話で忘れられないものがある。デビューしてわずか五年目の彼とトークショウをしたときだ。一生、小説家をつづけられると思うか、と訊ねると、こう答えたのだ。
「つづけられると思います。なぜかというと、以前自分が営業マンをしていたときの経験ですが、同じ営業所に、どうしても成績で勝てない人がいた。
失礼ながら、それほど弁が立つわけでもない。外見がとりたててよいわけでもない。なのに自分がどうがんばっても、彼の成績を超えられない。
なぜだろうと考え、気づいたことがあった。それは、その人が営業の仕事を、好きで好きでたまらなかったんです。僕も決して仕事を嫌いではなかったけれど、彼ほどは好きではない、と思った。
ひるがえって、僕は、自分の小説が好きなんです。書くことが好きで好きでたまらない。だから、一生、小説家をつづけられると信じています」
道尾さんはデビューして今年で12年。今でも同じことを答えるのかは分かりませんが、でも、精力的に新作を発表し続けているところを見ると、きっと変わっていないのだろう、と思います。
ホラー、ミステリー、純文学的な作品と、作品の幅も広く、常に新たな挑戦をしているような姿勢を見ても、小説を書くのが今も好きなんだろうなぁ、と。
(こういう一つのジャンルにとどまらず、新しい挑戦をし続けるところは、まさに「素敵な仕事人の共通点 その1 変化しつづける。ジグザグに」です。
“好きで好きでたまらない”そんな仕事に出会えたら、とても幸せですよね。
道尾さんも、いつか実際に会ってみたい方の一人です。
※ミステリー好きの方には、「ラットマン」か「カラスの親指」、純文学好きの方には「光媒の花」「月と蟹」、小説をあまり読まない方には「カラスの親指」がお薦め!
ラットマン (光文社文庫) 道尾 秀介 by G-Tools |