今日は素敵な仕事人として、イラストレーターの茶谷順子さんを紹介します。
茶谷さんは「人」を中心とした、ほんわかとしたイラストを描かれることを仕事にされていますが、それと同時に、スターバックスや宇宙センターのお土産物屋さんなどで接客業もしています。
そう言うと、「あぁ、イラスト一本ではまだ食べていけないのね」と思われることも多いそうですが、茶谷さん本人としては、人と接する仕事をするなかで「人」を学ぶことは、イラストの仕事に欠かせない要素だと考えているとのこと。
インタビューのなかで何度も、「なんでみんなは……なんだろう」と疑問を口にしていた茶谷さんからは、世の中の常識にとらわれない自由な魅力を感じました。
分かりやすく世の中に反旗をひるがえすアウトローな感じでは全くなくて、いい意味で、何にも囚われず、自分の心を大切にして飄々(ひょうひょう)と生きている感じの茶谷さんからも、新しい視点をたくさん学べました。
是非、インタビュー、お読みいただけたら。
Contents
自分が作ったもので世の中を良くできるのか?
茶谷さんは、子供の頃から絵を描くのが好きで、高校時代にイラストレーターになりたいという目標を持ち、有名なイラストレーターを数多く輩出していた桑澤デザイン研究所に入学します。
そして卒業すると、デザイン事務所に勤め、デザインの仕事を始めます。
最初は文字の入力など基本から始め、大学案内を作るようなことをしていたそうですが、最終的にはインテリア雑なども作るグラフィック中心の個人事務所で働きはじめます。
そこでの仕事は大変な時期がありながらも、基本的には楽しく働いていたという茶谷さんですが、あるとき、ふっと疑問が湧いたと言います。
ふと、世の中にはこんなにたくさん本が必要なのかな、という疑問が湧いた。
雑誌だから、完成した瞬間に、もう次の号のことを考え始めている。そんなサイクルに、ちょっと疑問を感じてしまったというか……。丹精込めて作ったものを投げ捨てるように、次、次、と進んでいく。
作っている雑誌のなかには、長く使える家具を選びましょうとか書いているのに、自分たちの作っている雑誌は、そんなに長く使えるものなのだろうか、という思いもあった。
そんな疑問を持ち始めたのは、もっとデザインではなく、イラストの仕事を頑張りたいと思っていた時期でもあり、イラストレーターとして独立することを、茶谷さんは、この頃考え始めたそうです。
人を元気にする仕事に惹かれた
でも、急にイラスト一本で食べて行かれるわけでもないので、まずは「次の職場」が必要になります。
そこで茶谷さんが選んだのは、デザイン事務所ではなく、スターバックスでした。
その頃働いていたデザイン事務所は青山にあったのだけれど、当時はまだ100店舗くらいしかなかったスターバックスが近くにあって。
カプチーノのおいしさに「なにこれ、おいしい!」とすごい感動して。
そのコーヒーの美味しさに元気づけられたし、それだけじゃなくて、店員さんも元気で、店全体が活気あふれる空間になっていて、こんなに様々な人を元気にできる仕事ってすごいな、と感じた。で、そのとき、思った。
みんな、疲れたままで、働けないじゃん?
一息つきたいよね。
そういうとき、必要でしょ、コーヒー?って。それで、私もこんなふうに人を元気にできる仕事がしたいなって気持ちが強くなった。
この“人を元気にする仕事がしたい”というのは、茶谷さんの仕事に対する想いの根幹のようでした。イラストを描くときに大切にしているのも、“手に取った人が笑顔になること”だそう。
ただ、デザイン事務所を辞めて、スターバックスで働きたいと言ったとき、周りのクリエーター系の仕事をしている友人などには「なんでそんな、誰にでもできるお茶くみみたいな仕事」というように思われたと言います。
でも、茶谷さんに迷いはなかったそうです。
人を元気にする仕事をして、そんな元気になった人を身近で見ていられる現場なのだから、人のイラストを描くのに良い勉強にもなるし、自分にとっては、とてもしっくりくる職場だった。
こんなふうに、人からの評価ではなく、自分の心の動きを大切にしている茶谷さんだからこそ、そのイラストには、人の心を動かすエネルギーが含まれているのかもしれないな、と感じました。
さらりと書かれた風のイラストですが(実際、あまり時間をかけず、さらりと描いているそう)、でも、茶谷さんのイラストからは、ぱっと見るだけで、何か伝わってきますよね。一度見たら忘れられないし、確実に心を動かされる気がします。好きなテイストです。
1つの仕事しかしちゃいけないって、誰が決めたの?
そうやって、スターバックスなどで接客業をしながら(スターバックスは去年辞めたそうですが、今も接客業をされています)、イラストの仕事をもう20年ほど続けている茶谷さんですが、そうすると周りの人からは時々、
「いつまでそんな生活をしているの?
早くイラストで一本立ちできるようにならないと」
というように言われることもあるとか。
そんなとき、茶谷さんはこう思うそう。
なんで一つの仕事しかしちゃいけないんだろう。
私がイラストと他の仕事をしていることで、誰かに迷惑をかけたりしたわけでもないし、なんで、これじゃダメなんだろう、と思う。
そして、こんなことも言われていました。
日本には相変わらず、一つの仕事をずっと続けるのがいいという考えがあって、仕事の面接を受けると、“なんで前の会社は辞めたんですか?”とネガティブなイメージで訊かれる。でも、そういう捉え方が、みんなを窮屈にしているように感じる。
確かに、よく考えたわけではないのに、「きっとこういう生き方の方がいいはずだ」「こういう働き方の方が世の中に役立っているはずだ」みたいに勝手に決めつけて、判断していることが、私にも多いかもしれません。
でも、王道の道だけが道ではなく、案外そこを外れた道の方に、楽しかったり、快適だったりすることもある。
そんなことを、様々な生き方をしている人に出会うと感じることができます。
たとえ自分の意志ではなく王道の道から降りざるを得なくなっちゃったって、案外他に道はあるから、大丈夫。
……と、目茶目茶なキャリア(塾の先生→WEBデザイナー→社労士→ライター(^_^;))を進んできた私は思います。
自分が楽しめることが一番大事
そんなふうに、周りの意見でも世間の常識でもなく、自分の心に素直に生きている茶谷さんが言われていたのが、
「人を楽しませることを考えるのも、もちろん大事だけれど、自分が楽しめることが、一番大事」
ということ。
茶谷さんは、岩田松雄さんという方と一緒に「リーダーに贈る言葉」という本を3巻まで出されています。この本はamazonでは買えるけれど、書店には並ばない自費出版の本です。
茶谷さんがイラストを描いて、岩田さんが文を書いているのですが、岩田さんというのは、スターバックスのCEOをされていて、今はエグゼクティブに向けたコンサルやコーチングをされている方だそうです。
なので、
岩田さんの名前を出せば、どこか出版社から出版することもできたと思う。
でも、出版社が入ると、自由にできなくなってしまう部分もでてきてしまう。
だから、敢えて、自分たちが楽しめること最優先で作ろうと決めて、この本は自費出版という形になった。
のだそう。
普通に出版できるのに、敢えて自費出版をするというのも、また、私には驚きでしたが、本当、世の中には色々な価値観で動く人がいて、それでいいんだな、というか、それが大事なんだな、ということを、茶谷さんの話からも、とても感じました。
常識に囚われれば囚われるだけ選択肢は減るんですよね。
特に「リーダーに贈る言葉」の第1号は、「自分たちが楽しいと思う絵本を作って、友人知人に配って楽しもう! とにかく自分たちが楽しもう!」という企画者の意図が最優先され、大量に無料配布されたそう。
その無料配布された冊子が縁で、茶谷さんのところにも、リーダーシップに関するセミナーのイラストを描くなど、新たな仕事の依頼も来ているそうですし、縁や広がりというのは、面白いですね。
大切にしていることと、これからのこと
茶谷さんに、「これからどうしていきたい、という展望はありますか?」と訊いてみたら、こんな答えが返ってきました。
仕事量はもっと増やしていきたいな、というのはある。
でも、人のことを描いていきたいというのは変わらない。
相手のことをほんのり照らす懐中電灯のような絵を描きたいと思っている。もらった人が笑顔になるような絵を描き続けていく。
相手の良さはそのままに、相手が気づいていない魅力や面白さをさらに照らし出すような絵が描けたらいいな、といつも思っている。
やりたいことはそのひとつしかなくて、だから“これから”とか“次”と訊かれると答えるのは難しい。
この言葉、茶谷さんはさらりと言われていましたが、素敵な言葉だなと思いました。
この言葉はつまり、「今もやりたいこと、やるべきことをちゃんと自分はやっている。これからも、ただ同じようにこのやりたいこと、やるべきことを続けていくだけだ」ということですよね。
格好いい!
先日、茶谷さんのブログに、友達からもらったコメントが紹介されていました。
順ちゃんの描く絵は、ほんわりとしてやわらかいタッチなのに、
なぜか不思議と強い意志を感じます。
この言葉、すごい分かるな~、と思ったのですが、それはやっぱり、茶谷さん自身に、しっかりとした芯が一本通っているからなんだろうな、と思いました。
仕事を楽しむためには
そんな茶谷さんに、「仕事をしていると、つらいとかつまらない、ということもあると思うけれど、そういうときはどうしたらいいと思いますか?」と訊いてみました。
茶谷さんは、前にも書いたように、イラストの仕事だけではなく、接客業やデザイン事務所など色々経験しているのですが、「楽しいと思う仕事をするようにしている」と言われていたので。
茶谷さんの答えはこうでした。
相手を楽しませよう、と思うことかな。
どんな仕事でも、その向こうには「人」がいる。
想像力を駆使して、その誰かに寄り添うような良い仕事をしようと思う。
そうすると、つまらないという思いはなくなって、楽しくなってくる。
できなかったことが、できるようになる、というのも楽しい。
加点方式で、マイナスでは考えないようにする。
先ほど書いた「リーダーに贈る言葉」という本は、著名人の名言+解説に、茶谷さんの可愛いイラストが添えられている形なのですが、茶谷さんの生き方のなかに、そこに載っている著名人の名言が、きちんと血肉になって入っているような印象を受けました。
フリーでやっていくために大切なことは?
そして、他の仕事をしながらも、20年ほどフリーのイラストレーターとして活動している茶谷さんにも、「フリーでやっていくために大切なことは何だと思いますか?」という質問をしてみました。
茶谷さんは「ネットワーク」と最初に答えてから、
ネットワークを築けるような、ちゃんと信頼されるような人柄に、まず自分がなるということかな。
と言われていました。なるほど、そうですね。
茶谷さんも独立当初は、出版社に営業の電話をしたりもしていたそうですが、最近はほとんどそういうことはせず、人とのつながりのなかで声を掛けてもらうことが増えているそう。
そうすると、初めから茶谷さんのイラストのテイストをきちんと分かって頼んでくれるから、心地よく仕事ができる、と。
確かに、そうですよね。
でも、そんな心地よい関係をビジネスで築けるようになるためには、人としての関係も当然、心地よく築ける人じゃないといけないわけですよね。
フリーでやっていくのに大切なのは、「ネットワークを築けるような、信頼される人柄」というのも納得です。
茶谷さんは、フリーランスの大先輩であり、3歳ほど年上にも関わらず、全然偉ぶらず、友達のように終始接してくれて、とても楽しく話ができました!
(ところどころ「おぉ、そう来ますか」「お、真面目な質問、来ましたね」とか、茶々を入れてくれ、ペースを乱される場面もありましたが(笑) それはそれで、また新鮮なインタビューでした。きっと照れ屋なのでしょう(^_-)フフッ)
貴重なお休みの日に時間を頂き、ありがとうございました♪
是非、素敵な茶谷さんのイラスト、身の回りに置いてみてくださいね♪
本も絵葉書も、大切な人への贈り物にも最適です。
★茶谷さんのサイト。「リーダーに贈る言葉」や絵ハガキ・メッセージカードなどが注文できます。子供の似顔絵を描いてほしい、ウェルカムボードを描いてほしいなど個人的な注文もできるそうですよ♪
http://www.jchatani.com/
★茶谷さんのブログ。
真面目だったり、ちょっとふざけてみたり(?)、絶妙なバランスのブログで、個人的に結構好きです。
http://www.jchatani.com/ブログを読みたい/
◆是非、他の素敵な仕事人インタビューもお読みください!
→ 素敵な仕事人の定義と一覧