今日は素敵な仕事人として、社会保険労務士の桑原和弘先生をご紹介します。
桑原先生は、プロのミュージシャンから、ほとんど”普通”の社会人経験もないまま社会保険労務士になり、今は、コンサルタント、研修講師としても活躍されています。
いつも笑顔を絶やさず、自信に満ちているように見えながら、「大学に行っていないことにコンプレックスも感じている」と言い、大学生よりもずっと熱心に生涯学習を続けられている、進化し続ける仕事人です。
先日、お忙しいなか、お時間を作って頂き、1時間ほどお話を伺いました。
1時間ちょっとでしたが、話は多方面に及び、私の理解力と文章力では伝えきれそうもないくらい、本当に深い話をたくさん聴かせて頂きました。
とても素敵な時間を過ごせました。ありがとうございます!
Contents
顧問先も長くなれば、労務トラブルはなくなってくる
社会保険労務士の多くは、会社の顧問になり、その会社の給与計算をしたり、入社や退社にともなう社会保険関係の手続きをしたり、就業規則を作ったりしています。
でも私の周りにいる社労士には、「給与計算や手続きはしない」と決め、労務関係のコンサルやマネジメント研修、次期リーダーを育てる研修などに力を入れている先生も多いのですが、桑原先生も、そのタイプの先生です。
つまり、労務トラブルが起こったときに相談に乗るという「労務コンサル」の契約をし、顧問先などに定期的に研修を行うというのが主な仕事です。
ただ桑原先生の言葉で、なるほど、と思ったのが
「顧問先も長くなってくると、労務トラブルは、滅多に起こらないんだよね」
という一言。
確かに、社労士として会社を良くするためのアドバイスをしていたら、それが「予防」になり、トラブルが実際に起こることはなくなるわけです。
そこに辿り着くまで、会社と付き合い続けるというのは、社労士の醍醐味かもしれません。
(逆に言うと、トラブルが多い企業は、トラブルがなくなるところまで、付き合ってくれる良い社労士を見つけるべきですね)
で、ほとんど顧問先の労務トラブルがなくなった桑原先生ですが、それで今はどうしているかというと
「ほとんど、社長の話を聴いている。話を聴いて、一緒に悩んで、短いアドバイスをちょっとしてみるくらい」
で、「理想は、お坊さん。……本当、お坊さんになりたいなと思うよね」とのこと。
理想は「お坊さん」
え? お坊さん? という感じですが、桑原先生の言葉を聴いていると、確かに「説法」に通じるものがあるような気がしてきます。
たとえば一緒に旅行に行った経営者の財布がなくなったとき。その経営者は「きっと盗まれたんだ」と大慌てだったそうですが、桑原先生は一言、
「大丈夫、必ず出てくる」
そして、
「これから俺の友達に会うわけだから、”財布なくしちゃってさ”とネタにすればいいじゃない。そうしたら、奢ってもらえるかもよ」
と言ったそう。
それだけでも、なかなか言えることではありませんが、「そこで言いたかったのは、2つのことなんだよね」とまとめられていた言葉が、また素敵でした。
「ここでの教訓は2つ。
失ったもので、あたふたしない。
今、できることだけ考える」
ここで”できること”というのは、財布に入れていたクレジットカードを止める手配もそうですが、”これから人と会う時間を楽しむ”ということも含まれているわけですよね。
今できる最良を考える
また、その経営者との別のシーンではこんなアドバイスをされたそう。
その方は、実務もする経営者でしたが、実務からは少し離れて経営に専念したいと思っていました。
でもそれを見た社員たちは、「社長は遊んでばかりいて、仕事をしない」と捉えたとのこと。
確かに、経営者と社員の”仕事”というのは違うジャンルのものですからね。
で、桑原先生に「社員に、社長は遊んでばかりいる、と思われるのだけれど……」と相談されたそうです。
そこで桑原先生がしたアドバイスは、どんな言葉かというと……
「遊んでばかりいると思われないように
『俺は遊んでいる訳じゃないんだよ』と社員に分からせることに躍起になっていなかった?
でも、そんなふうに分からせようとしても、社員が分かってくれることはないよ。
だから、分からせようということに一生懸命になるのではなくて、
『あぁ、俺は遊んでいるよ。でも、遊んでいられるのは、お前らがちゃんと働いてくれているからだ』とまずは社員にリスペクトを与えてみてはどうだろう」
確かにそうですね……。
常に”今できる最良を考える”という姿勢があるから、桑原先生はいつもパワフルに見えるし、周りに良い影響を与えられるのだなと改めて感じられた言葉でした。
好きなことを仕事にするには?
そんな素敵な仕事をされている桑原先生に、このブログの最近のテーマになっている
「好きなことを仕事にする方法は?」と「自己肯定感を高めるには?」という2つの質問もしてみました。
まず、「好きなことを仕事にするには、どうしたらいいと思いますか?」という質問に対する答えは、意外とシンプルでした。
「目の前にきたチャンスを逃さず、一生懸命にやっていると、またやりたいと思える仕事に出会えることがある。そういう仕事をまた、やればいい」
なるほど。
自分がこうしたい、あぁしたい、と思っていても、その仕事ができるかは分からない。ニーズがあるかも、自分にその力があるかも。
でも、一度頼んでもらって、できた仕事というのは、また次にできる可能性も高いわけです。
一度やって、またやりたいと思った仕事を、またやる。
またやりたいと思ったら、またやる。
確かにそれを繰り返していたら、いつの間にか好きな仕事が増えていますよね。
桑原先生は「社労士になりたいと思ったことはない。今も、社労士として振舞わないといけないシーンというのはあるけれど、自分から社労士になりたいとか、社労士の仕事をしたいとか、一度も思ったことはない」とのこと。
さらりと話してくださいましたが、かなり深い言葉だなと感じます。
自己肯定感を高めるには?
先の質問の答えがシンプルだったのに対し、自己肯定感については、少し言葉を選ばれていました。
「自己肯定感……って何? と思う。
そもそも自己って何?」
そこまで深く考えてこなかった私は、「え? 自己肯定感と自信って違うんですか……」という低レベルの質問をしてしまいましたが、桑原先生曰く「違う」とのこと。
「自己というのは、この皮膚に囲まれたこの範囲のこと?
自己って、状況に応じてもっと広がるものだと思うんだよね。
たとえば”渋谷区をもっと良くしたい”と思うとき、そのときの”自己”は”渋谷区”まで広がっていると思う」
40歳頃から(現在桑原先生は47歳)東洋思想にも興味を持ち、孔子・孟子・老子などの本をたくさん読んで学ばれている桑原先生の言葉には、広がりがあります。
たとえば仏教や老荘思想などによると、私たちは宇宙の一部であり、つまり「私(自己)」という区切りは無意味になっていくそうです。
ですから、”私”と”あなた”が話していても、それは”私たち”が話しているわけであり、”私たち”というのは宇宙まで広がりがあるというわけです。
……と、私が解釈すると浅くなってしまうかもしれないのですが、
つまり、「自分がこうしたい、ああしたい」「自分はこう変わりたい」と思ったり、「自分はこの技術をもっとうまくなりたい」「自分はこんな仕事がしたい」と思っているあいだ、主語は「自分」なわけです。
でも、自分は宇宙の一部と認めることで、宇宙が自分を通して、何かすることになる。
桑原先生は以前、プロのミュージシャンだったので、こんなふうに言われていました。
「当時は、もっとギターをうまく弾きたいと思って練習したりしていた。
ギターを弾いたり、歌を歌ったりして、それが人に届いて、お金になったりもした。
でも、”自分が音楽をしている。自分がギターを弾いている”といううちは、それは嘘なんだ。
そうじゃなくて、”自分が音楽になる”というのが本当」
こういう思想的な考え方は、受け入れない人は受け入れないのかもしれませんが、私は素敵だなと思いました。
こう考えられれば、「私(自己)」というのは、少しずつ無色透明になっていき、できるだけ宇宙がスムーズに働けるように整えるだけでいいことになります。
そしてそんな世界では、「自己肯定感」なんていう問題も起きなくなってくるわけですよね。
つまり、自分が考え、自分で道を切り開いていかないといけないと思うと、相当な「自己肯定感」がないと難しい。でも、自分は宇宙の一部なんだと、いい感じに力を抜いて委ねられれば、自分ではなく、宇宙を信頼できればいいわけです。
そちらのほうが、力まず、心地よく生きていけそうですよね。そして、力まないほうが、むしろいい働きができそうです。
桑原先生が言われていた
「なりたい自分を目指して変わっていく、というのもいいけれど、自分の気持ちなんて、常に、不安や苛立ちなどで波立つ、ぐらぐらした不安定なもの。そんな心で考える”なりたい自分”なんて、信頼できる?」
という言葉も非常に印象的でした。
「そんな不安定な心で考える”なりたい自分”などというのは”邪念”であり、むしろそんな自分が主語の邪念など振り払い、心をできるだけ静かに整え、宇宙の一部になる努力をしたほうがいい」
※歴史が苦手だった私の為に、東洋思想家の系図を書いてレクチャーしてくださいました。
自信の作り方
そして、「自己肯定感」とは違うと断言されていた「自信」ですが、こちらはとてもシンプルに
「自信を作るのは、簡単なこと」
だとか。
「自信があるかないか、というのは、自分が信頼に足る人間かどうかということ。
たとえば、他人のことを信頼に足るかどうかはどうやって判断する?
基本的に、約束を守ってくれる人は信頼できるでしょ?
つまり、自分に自信を持ちたければ、自分との約束をきちんと守っていけばいい。それが一番簡単な、自信の持ち方。
たとえば帰りにスタバに寄ろうでもいい。
それだって自分との約束。でも、大抵の人は約束とは認識していないだけ。
でも、一つ一つ、そういう自分との約束を言語化して、意識して、そして守っていく。それが大切。
自信がない人は、うまく約束を果たせなかった1回にフォーカスしてしまうけれど、守れなければ、また次の約束をし直せばいいだけ」
さすがです。
桑原先生は頻繁に”言語化する”大切さを言われていましたが、ご自身も意識して取り組んでいらっしゃるのだろうなと思いました。
でなければ、”自信とは?”などという抽象的な質問に、なかなかすぐに答えられるものではありません。
自信をつけるため、自分をもっと知るために、「色々なことを言語化してみるといい」とも言われていました。
自分はコーヒーには砂糖を1杯入れる、自分はいつも右足から体を洗う、など小さいところから自分を意識するといい、と。
やったことがなかったので、やってみようと思います。
確かに意外と自分のことって、分かっていませんよね。
そして、この言語化、桑原先生は娘さん(現在小2)にもその大切さを学んでもらおうと試みているそう。
年に2回、外の店などに連れ出し、「30分時間をください」などきちんと依頼し、「楽しかったこと」「将来の夢」などを訊いていく”インタビュー”を行っているのだとか。
そうすると幼いながらも「〇〇のときは淋しかった。悲しいというのでも、つらいというのでもなくて……淋しかったんだと思う」など、きちんと自分の感情を言葉で説明できるようになるそうです。
私も息子が喋れるようになったら、取り入れてみたいです。
そんな、本当に素敵な気づきがいっぱいの、密度の濃い1時間でした。
最後に「定点観測で、また来てくださいね」という温かい言葉も頂き、嬉しかったです。
(実は前の会社にいたとき、そこの仕事で一度インタビューさせてもらったことがあるのです。もう6年ほど前になります。→ 2009年11月のインタビュー)
また是非、さらに進化した桑原先生に会いに行きたいと思います!
私もそれまでにちょっと東洋思想を勉強したいです。
「難しい法律など専門知識も、分かりやすい言葉で教えてくれる親しみやすい社労士の先生を探している」
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