過去に2度廃案になっていた(そのうち1回は条文の記載ミスというおかしな理由でしたが)派遣法の改正案が、ついに今日、成立しました。
この改正によって、企業側としては、今後、どんな業務であっても「人を替えれば」、期間の縛りなく派遣社員を使うことができることになります。
ただ、派遣社員の側から見ると、今まで「専門28業務」と呼ばれる業務をしていた人は、何年でも同じ会社で働けたのですが、今後は上限が3年になります。
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労働者派遣の歴史
もともと「派遣社員」というのは、「特別な技能を要する仕事をする人が臨時に必要だ」という場合に使える制度として作られたものでした。
たとえば専門28業務には「通訳・速記」などがありますが、今年の冬に大きな国際会議を開くから、その期間だけ、通訳や速記の人が必要だけれど、その後は必要なくなる、みたいなことですね。
でも、今、こんなふうに派遣社員を使っている会社は稀でしょうし、「派遣社員」ときいて、上記のような仕事をイメージする人も稀だと思います。
現状、「派遣社員」のほとんどの人は、派遣先の企業の正社員とほとんど変わらないような仕事か、正社員より責任は重くない仕事をしていると思います。
結局、派遣社員は、契約社員以上に「いざというときにクビを切りやすい『雇用の調整弁』」として、日本社会で活躍の場を広げてしまったのです。
今回の改正の意図は?
今回の改正の目的は、派遣社員という不安定な非正規雇用労働者をできるだけ正社員にしていくことだというように政府は説明しています。
しかし、企業は同じ人を3年以上続けて派遣社員として使うことはできなくなりますが、人さえ替えれば、ずっと同じ仕事を「派遣社員」という人に任せていけるわけです(今後は28業務以外のどんな業務であっても)。
逆に、派遣社員側としては、今まで同じ会社で10年、15年と働いてきていても、「今度からは3年が上限になります」ということになってしまい、それ以上はその企業にいられませんし、次の派遣先を紹介してもらえるかも分からなくなります。
つまり、派遣社員側から見ると、「不安定な非正規雇用労働者」がさらに「不安定」な未来を突きつけられたことになっているのです。
そういう意味で、労働組合系の団体は以前から多く反対の声を挙げていました。
いたちごっこ?
ただ、同じ派遣社員を10年、20年と使っている企業としては、「3年ごとに人を替えれば、ずっと派遣社員を使えますよ」と言われても、「3年ごとに新しく引き継ぎをしたり、1から仕事を覚えてもらわないといけないのか」と思うと、やはり面倒です。
派遣社員の側も、同じ会社で同じ業務を続けられたら、その方がいいという人は多いでしょう。
本来、こういう場合に「じゃあ、派遣社員という形はやめて、直接雇用にしましょう」となれば、今回の法律の改正にも意味があるわけです。
しかし、そのようになるケースは、限られた割合になりそうな気もします。
派遣元の会社(いわゆる「派遣会社」)が今まで派遣していた社員をパートや契約社員という形で直接雇用し、派遣先に業務委託という形で通わせるという方法をとっているところもすでにありますし、今後この方法は増えていく気がします。
(その場合、派遣元の社員も一緒に派遣先に行き、その「パート(元・派遣社員)」に指示命令を出せば、「偽装請負」にはならないという形です)
いたちごっこというより、法改正が決定する前からすでに民間企業に対策を取られているというわけで……ちょっと情けないんじゃない、政府? と少し思ったりしますが。
他に替えられないスキル
ただ、今回の改正で、専門28業務では、「3年」の縛りができ、派遣社員が減りそうですが、それ以外の業務では派遣社員が増えそうですので、「派遣社員」の仕事自体が減るわけではないでしょうね。
そして、「28業務以外」では、今まで業務委託していた仕事を、派遣社員に替える動きも出てくるかもしれないと言われています。
この動きに脅威を感じているフリーランスもいるとか。
ただ結局、自分の身を守る手段は、「自分は他に替えは効かない」ということをアピールする手立てを持つことかもしれません。
それか、雇われる立場でなくなっても、自立できるなんらかのスキルを磨いておくか。
私は今まで18年の職業人生のうち、「正社員」という立場だったのは8年ほどですし、「正規雇用絶対主義」ではありませんが、社会に出て働くからには、それぞれの雇用のメリット・デメリットや、誰に(政府や会社や地域?)どれくらい守ってもらえるのかということについての知識は誰でも持っていた方がいいのではないかな、と思ったりします。
ちなみに今回の改正には
◇ 派遣元会社は、派遣社員への教育訓練をしなくてはいけない
◇ 派遣元会社は、派遣社員の直接雇用を派遣先に頼んだり、新たな派遣先を提供したりしなくてはいけない
という内容も含まれています。派遣元のパートや契約社員になると、この対象ではなくなりますので、そこも注意が必要ですね。