大学に入ったとき、一応名のある大学だったのもあり、「一番効率よく稼げるのは、塾か家庭教師のバイトだよね」という雰囲気がありました。
私が大学生だったのは、もう20年も前の話なので、今はどうなっているのか分かりませんが。
それで、あまり深く考えず、私が初めてやったのも、塾の講師というアルバイトでした。
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塾のアルバイト
ただ個別指導の塾で、時給は少しずつ上がっていくものの、初めは900円を切っていたと思います。
塾というのは、夏休みなど長期の休みでなければ、基本的に夕方からしか開きません。
しかも、20時以降の遅い時間は、生徒が少ないので、大体、アルバイトの人は、90分の授業を2つか3つやって帰るという形です。
授業2つとして、90分×2の180分、つまり3時間分、2700円が1日の稼ぎということになります。
2つの授業のあいだにある10分は片づけと準備に追われ、休む暇などありませんが、時給には含まれず……。
そして、10分前に来て準備をしろとか、授業の様子を書くレポートは授業の後に書けと言われ、大抵授業のあと、20~30分は残るのが普通でしたが、その分の時給もありませんでした。
もっと言えば、受験生の算数とか、英語などを引き受けてしまったら、授業時間と同じくらいの時間、予習が必要になりますが、その分の時給も、ありません。
あの当時の最低賃金がいくらだったかは分かりませんが、あきらかに最低賃金以下の時給になっていたことでしょう。
ブラックバイトって?
数年前「ブラック企業」という言葉が流行語大賞にノミネートされるくらい話題になり、その派生でか、最近「ブラックバイト」という言葉も聞くようになりました。朝日新聞にもコーナーができています。
そのコーナーでは、売れ残った商品を買い取らないといけないとか、自社ブランドの服を月に何着も自腹で買わなくてはいけないとか、「それはきついな」と思える事例も多く紹介されています。
その「ブラックバイト」のなかに、上記のような塾の話も出ていて、塾業界は今もあまり変わっていないのだな、と感じてしまいました。
でも、そこでふと思うのは、私自身はあの当時、あの時給で働くことに疑問など抱いていなかったな、ということです。
たとえば知り合いに社労士なる人がいて、「あなたの時給は、予習時間やレポートを書く時間まで含めて、真面目に計算したら、最低賃金にも満たないんだよ。そのバイトはブラックバイトだ」と言ってきたとしたら、「それは問題なんじゃないか」と思ったかもしれません。
でも、当時は部室でだらだら時間を過ごす学生の姿が「普通」で、授業の後、「仲間」としゃべりながら、のんびり控室に居座り、レポートを書くのは、そんな学生生活の「普通」の延長だった気がします。
問われるのは「なんでそのバイトをしているの?」ということ
新卒で勤めた会社は学習塾を運営している会社だったので、入社したとき、個別指導の塾で、時給1000円弱で働いていたという話をしたら、
「なんで(早稲田というブランドもあるのに)、そんな安い仕事してたの?」
と、上司に言われました。
確かに傍から見ると、そう見えるのでしょう。
そのとき、あまり気負いなく自分がさらりと答えたのは、
「でも、私のことを指名してくれる生徒もいたから」
という言葉だったのを、なぜか今でも覚えています。
つまり、あの頃の私は、お金を稼ぐためではなく、人からの承認とか、居心地のいい場所みたいなものを求めていたのだと思います。
だから自分にとって塾の控室は、写真部の部室と似たようなものに見えていました。
あの頃、「同僚」だった人の多くは、同じように実家暮らしの、そこまでお金に困っているわけではない人たちだったので、みんな似たような理由で働いていたのではないかと思います。
そんな、平和な実家暮らしと違い、もっと稼ぐ必要に駆られている人たちは、きっとそんな割に合わない塾の仕事などしないでしょう。
するとしたら、自分で塾を立ち上げるとか、レベルの高い生徒の集まる集合の授業を担当することを考えるはずです(プロの講師と認められれば、そうとうな時給も弾き出せるのが、教育業界です。予備校の名物講師のように)。
アルバイトではなく、「正社員」として会社に勤め始めてしまうと、もっと様々なしがらみがつきまとったりしますが、コロコロ職を変えても、経歴に傷をつけないのがアルバイトです。
そういう時期こそ、自分の「働く意味」とか「なぜ働いているのか」を明確にし、本当にしたい仕事を見つけるチャンスなのかもしれません。
ブラックバイトの取材を受けながらも、そのバイトにしがみついているような人の記事を読んでいて、つい、思ってしまったことです。